大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決

原告 有限会社森山物産

被告 八戸税務署長

代理人 平尾雅世 佐藤芳郎 尾久浩二 山中周造 鳴海儀晴 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告に対して昭和六三年一一月二日付けでした酒類販売業免許の拒否処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  酒税法九条一項は、酒類の販売業を営もうとする場合には税務署長の免許が必要であると規定し(以下、「酒類販売業免許制度」という。)、同法一〇条一〇号は、税務署長は、申請者の経営の基礎が薄弱であると認められる場合は免許を与えないことができると規定している。

2  原告は、被告に対し、昭和六三年五月一八日、酒税法九条一項の規定に基づき、青森県八戸市白金三丁目一三番一を販売場とする酒類販売業免許の申請(以下、「本件申請」という。)を、ほか七件の販売場の免許申請とともにした。

3  被告は、原告に対し、昭和六三年一一月二日付けで本件申請を含む八件の免許申請はいずれも酒税法一〇条一〇号(申請者の経営の基礎の薄弱)に該当するとして酒類販売業免許の拒否処分(以下、本件申請に対する拒否処分を「本件処分」という。)をし、同月四日、原告にその旨通知した。

二  本件の争点

1  酒類販売業免許制度及び免許の要件を定めた酒税法九条一項、一〇条一〇号の規定は憲法二二条一項(職業選択の自由の保障)に違反するか否か。

2  被告が本件申請につき酒税法一〇条一〇号(経営の基礎の薄弱)に該当するとしてした本件処分(酒類販売業免許の拒否処分)は適法か否か。

三  争点についての当事者の主張

1  酒類販売業免許制度の合憲性

(一) 原告の主張

(1) 憲法二二条一項が保障する職業選択の自由は、公共の福祉による制約を受けるとしても、それは社会生活における個人の生命・身体・財産の安全を保障し、経済活動がもたらす弊害を除去ないし緩和するための警察的な目的、または憲法が企図している福祉国家的理想のもとに社会経済の調和のとれた発展を図るための社会経済的な目的による制約のみが許されるのであつて、酒税収入の確保を図るといつたような租税政策に基づく制約は憲法上許容されない。

(2) 仮に、租税政策に基づく制約が憲法上許容されるとしても、酒税法九条一項、一〇条一〇号は、次の理由により、その規制手段において立法目的との合理的関連性を明らかに欠き、また、その規制による個人の営業活動の自由に対する侵害の程度も重大であり、規制によつて得られる利益との均衡を著しく失しているから違憲である。

〈1〉 酒税徴収確保の目的を達成するためには酒税納税義務者である酒類製造業者又は酒類引取業者を免許制度のもとにおくことで足り、しかも、酒税法は、酒類製造業者らに対し、申告書提出義務、帳簿記載義務、酒税証紙貼付義務等各種の義務を課するとともに、その懈怠に対しては刑事罰をも科しているのであるから、それ以上に納税義務者でない酒類販売業者まで免許制度のもとにおく必要はない。

〈2〉 酒税法は、酒類販売業者に対しても申告書提出義務、帳簿記載義務、酒税証紙貼付義務等各種の義務を課するとともに、その懈怠に対しては刑事罰をも科しており、これらの規制手段によつて酒税収入確保の目的を十分達成することができるはずであるから、それ以上に酒類販売業者について免許制度を採用する必要性はない。

(二) 被告の主張

職業選択の自由に対する積極的、政策的目的による制限は、規制目的において一応の合理性が認められ、また、規制の手段・態様においてもそれが著しく不合理であることが明白でない限りは「公共の福祉」による制約として合憲と判断されるべきである。

租税確保の目的も右の積極的、政策的目的に当たるというべきであるところ、酒類販売業免許制度は、酒税の保全を基本目的として副次的に酒類販売業者の経営の安定を図るものであつて、目的において十分合理性が認められ、また、規制の手段・態様においても、免許を与えることを原則としており、与えない場合を制限列挙しているのであつて、酒税の消費者への転嫁の過程における酒類販売業者の重要な地位からすれば、十分な必要性と合理性がある。

2  酒税法一〇条一〇号(経営の基礎の薄弱)の該当性

(一) 原告の主張

原告は、酒類を販売するに必要な知識、能力を有する者が主体となつて設立された会社であり、十分な資金を有し、また仕入先も確保しており販売設備についても何ら問題はないから、酒税法一〇条一〇号の経営の基礎が薄弱な場合には該当しない。

被告は、原告の代表取締役である森山千年春が経営する株式会社中央スーパー(以下「中央スーパー」という。)と原告とを実質的に一体のものとして右の要件について判断しているが、原告と中央スーパーとは全く別の法人であり、資金や取引先も全く別個であるから、両者を一体のものとして判断するのは不当である。

仮に中央スーパーの経営状態を考慮することが許されるとしても、中央スーパーは現在も営業を継続し、利益を計上しているのであるから、原告の経済的信用が薄弱であるとはいえない。

(二) 被告の主張

中央スーパーは、本件申請当時、多額の欠損を抱え、多数の売掛金請求訴訟を提起され、租税も滞納するほど資金が欠乏していたものであり、自らは酒類販売業免許を得る可能性がなかつた。そのため、原告は、本件申請の一月足らず前の昭和六三年四月二二日に免許取得の手段として設立されたものであつて、原告と中央スーパーとは代表取締役がいずれも森山千年春で出資者もほぼ同一である上に、原告は、中央スーパーのテナントとして入店し、販売設備も中央スーパーのものを借用ないし併用し、従業員も中央スーパーから出向するというものであるから、原告の資金的要素も中央スーパーと同様な状況にあつたというべきであり、酒税法一〇条一〇号(経営の基礎の薄弱)の要件の判断に当たつては両者を一体のものとして判断するのが相当である。

また、右の中央スーパーの状況からすると、代表者の森山千年春の経営能力や遵法観念には疑問があり、同人は、中央スーパーの債務に関し個人資産について仮差押えを受けるなどその経済的信用も薄弱である。有限会社前田酒販(以下「前田酒販」という。)の代表者である前田知男は、原告の設立当初から原告の取締役に就任したが、前田酒販は事実上倒産状態にあり、同様に経営能力が不十分で経済的信用が薄弱である。したがつて、原告は、酒類販売業を経営するに十分な能力を有するとは認められない者及び経済的信用が薄弱と認められる者が主体となつて組織した法人である。

以上のとおり、本件申請は酒税法一〇条一〇号(経営の基礎の薄弱)に該当するものであるから、本件処分は適法である。

第三争点に対する判断

一  酒類販売業免許制度の合憲性について

1  憲法二二条一項は、職業選択の自由を保障しているが、職業選択の自由は、憲法に保障する他の自由に比べて公権力による規制の要請が強いことから、同条項は、公共の福祉に反しない限り、という留保を付している。

ところで、酒税法九条一項は、酒類の販売業をしようとする者は、その販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならないと規定し、同法一〇条一〇号は、右申請のあつた場合において「酒類の製造免許又は酒類の販売免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」には、税務署長は、免許を与えないことができると規定している。

このように酒税法九条一項、一〇条一〇号は、酒類販売業免許制度を採用し、職業選択の自由を制約している。

そこで、酒類販売業免許制度による職業選択の自由に対する制約が憲法二二条一項の規定に違反するか否かを検討する。

憲法は、国民が納税の義務を負うことを定める(三〇条)とともに、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」(八四条)と定めて租税法律主義を採用しているが、課税要件及び租税の徴収手続については、憲法自体は特に定めず、これらについては法律に委ねている。

そして、租税法の定立については、具体的な課税の対象、手段、方法などを規定する必要があるところ、そのためには社会経済の実態についての正確な基礎資料が必要であるとともに、具体的な課税及び徴税措置が現実の国家財政、社会経済にどのような影響を及ぼすか、その他の税制や社会経済政策全体とどのようにして調和を保つかなど様々な要因について極めて専門技術的な評価及び判断が必要である。このような租税立法の性質からすれば、租税の徴収確保のために立法により採用された措置が職業選択の自由に対する制約を加えるものであつたとしても、その具体的内容及び必要性等については、基本的には立法政策上の問題として、立法府の政策的、技術的な裁量判断を尊重するのを建前とし、裁判所がその合憲性を判断するに際しては、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白でない限り、憲法二二条一項の規定に違反するものとしてその効力を否定することはできないというべきである。

そこで、まず、酒類販売業免許制度の立法目的について検討すると、酒税は、平成元年度における租税収入予算額において、所得税、法人税、相続税に次いで第四番目の収入額を有し、間接税の中では最も多額の収入が見込まれていたものであり、歴史的にも我が国の租税収入中に重要な地位を占めてきたものであるところ、酒類販売業免許制度は、昭和一三年の同制度採用前に、酒類販売業者が急増しそれに伴つて各業者間の過当な販売競争が引き起こされ、その濫売競争の結果、多数の酒類販売業者の倒産が生じ、酒類製造業者の酒類販売業者に対する売掛代金の回収に困難を来し、そのため多数の酒類製造業者が廃業を余儀なくされ、ひいては酒税の滞納を招いたという経緯と酒税が税率の高い間接消費税であり、酒類販売業者が酒類製造業者と担税者である消費者とを結ぶ重要な役割を担つていることに鑑みて、酒類の流通過程を通じて酒類の販売代金の回収を円滑にし、酒税の消費者への転嫁を容易ならしめ、もつて酒税収入を安定かつ効率的に確保することを基本目的とし、副次的に酒類販売業者の経営の安定を図るために設けられたものである。(〈証拠略〉)。

したがつて、酒税法九条一項、一〇条一〇号所定の酒類販売業免許制度は、国家が国家財政上重要な酒税収入の確保を図るという財政収入確保の見地から採用した法的規制措置であり、その目的において必要性と合理性を認めることができる。

2  次に、酒類販売業免許制度の規制手段としての合理性に関する原告の前記各主張について検討すると、まず、納税義務者である酒類製造業者に対する免許制度だけで足りるとの主張については、酒税法は、酒類製造業者について免許制度を採用する(七条、一〇条、一一条)とともに、酒類製造業者に対し、酒税額等を記載した申告書の提出義務(三〇条の二)、製造等に関する事実の記帳義務(四六条)、製造場の位置及び製造設備、製造の開始及び休止や毎月末における酒類の所持数量等の所轄税務署長に対する申告義務(四七条)、酒税証紙の貼付義務(五一条)、酒類製造業者が所持する酒類や酒類の製造等に関する一切の帳簿書類等の物件についての質問・検査受忍義務(五三条)等の各種義務を課し、これらの義務違反に対する刑罰を定めている(五四条以下)。これらの規定は、納税義務者である酒類製造業者の酒税ほ脱を防止し、その徴収を確保するために設けられたものであり、現にそのような機能を有していることは明らかである。しかしながら、酒類製造業者が納付すべき酒税の納付資金については、右の法的規制措置によつて確保されるものではなく、酒類製造業者は、酒類販売業者に対する酒類の販売代金を回収して初めてこれを納付資金に充てることができるというのが通常であるから、酒類製造業者に対して販売代金を支払う立場にある酒類販売業者に対しても、免許制度を採用することは、それなりに合理性を認めることができ、これが不合理であることが明白であるということはできない。

次に、酒類販売業者に対しては、他の規制措置により酒税収入確保の目的は十分達成することができるはずであり、それ以上に酒類販売業者について免許制度を採用する必要性はないとの原告の主張について検討するに、酒税法は、酒類販売業者に対する関係での規制措置として、酒類販売業免許制度以外にも、販売に関する事実の記帳義務(四六条)、販売業を休止し又は開始したときの申告義務(四七条三項)、購入若しくは販売をした酒類又は所持する酒類の数量についての報告義務(四七条四項)、酒類の販売に関し酒税の取締又は保全上必要がある一定の場合における所轄税務署長の承認を受ける義務(五〇条)、容器に酒税証紙の貼り付けられていない酒類の所持等の禁止(五一条三項)、酒類販売業者が所持する酒類や酒類の販売に関するいつさいの帳簿書類等の物件についての質問・検査受忍義務(五三条)等の各種義務を課し、これらの義務違反に対しては刑罰を科する旨規定している(五六条、五八条ないし六〇条)。これらの規制措置は、酒税についてのほ脱を防止し、酒税の徴収を確実にすることを目的として定められたものである。しかしながら、酒類販売業者の経営の安定を図り、酒類製造業者の酒類販売業者に対する販売代金の回収を確実にするという目的を遂げるためには、右のような規制措置のみでは万全であるとはいえないから、酒税の保全ないし徴収の確保をより十分なものとするために、右のような規制措置のほかに、酒類販売業免許制度を採用することにもそれなりの合理性を認めることができ、酒類販売業免許制度が不合理であることが明白であるということはできない。

そして、酒類販売業免許制度は、過当な販売競争による弊害を防止し、酒類販売業者の経営の安定を通じて酒税収入の確保を図るために、酒類販売業者に対し、物的、人的、資金的な面から一定の経営能力があることを要求し、酒税法一〇条は、この点から免許を付与するための要件を定めている。しかし、同条は、酒類販売業の免許の申請に対し、免許を付与することを原則とし、免許を付与しない場合を例外的なものとして制限列挙している。

したがつて、酒類販売業免許制度は、その規制手段においても、立法目的との関連で一応の合理性を有するということができる。

3  以上の次第であり、酒類販売業免許制度及び免許の要件を定めた酒税法九条一項、一〇条一〇号の規定は、立法府の裁量権を逸脱して著しく不合理であることが明白であるとはいえないから、職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に違反しない。

二  酒税法一〇条一〇号(経営の基礎の薄弱)の該当性について

1  争いのない事実

(1) 原告は、昭和六三年四月二二日に、酒類販売業等を経営する目的で森山千年春及び森山京が各五〇〇万円を出資して設立した法人である。原告の代表取締役には森山千年春が、取締役には森山京及び前田知男がそれぞれ就任した。

(2) 本件申請の内容は、原告が中央スーパーの店舗にテナントとして入店し、倉庫を始め、運搬用の台車、陳列棚、オープンケース、包装台、レジスターなどの販売設備は中央スーパーのものを借用ないし併用し、また店員も中央スーパーからの出向者であるというものであつた。

(3) 中央スーパーは、森山千年春及び森山京が同社の発行済株式の合計九〇・五パーセントを保有する同族会社であり、森山千年春が代表取締役、森山京が取締役をしている。

(4) 原告会社は、本件申請当時は設立されたばかりであつて会社としての営業活動をまつたくしていなかつた。

(5) 一方、中央スーパーは、昭和六一年一一月一一日から翌昭和六二年一〇月三一日までの第二五期決算において、二億一九〇〇万四一二〇円の欠損を計上し、累積欠損は三億二二八五万八〇八二円に上り、三億一二八五万八〇八二円の債務超過の状況にあり、また五億円以上に上る買掛金の未払いがあつたため、債権者から売掛金の支払を求める訴訟を起こされ、同年九月二五日には森山千年春及び森山京の個人財産に対して債権者の雪印物産株式会社から仮差押がされ、これらの債権者の一部からは商品の納入を拒否されていた。

さらに、中央スーパーは、本件申請当時、源泉所得税及び不納付加算税三〇七万二二八〇円、固定資産税四八七万六二九〇円をそれぞれ滞納していた。

(6) 原告会社の酒類仕入先は、原告の取締役の前田知男が栃木県大田原市で経営していた有限会社前田酒販(以下、「前田酒販」という。)とする予定であつたが、前田酒販はそれまでに数回にわたり不渡手形を出していた。

2  証拠により認定した事実

(1) 中央スーパーは、昭和六二年当時、五億円以上に上る買掛金の未払いがあつたため、同年五、六月ころから債権者により売掛金の支払を求める訴訟を起こされるようになり、最終的には一五社から売掛金の支払を求める訴訟を起こされ、また当時前田酒販も多額の借金を抱えて事実上倒産状態にあつた。

(2) 原告は、中央スーパーが申請者となつて酒類販売業の免許申請をしても許可される可能性がないことから、免許取得の手段として、中央スーパーの発行済み株式の九〇・五パーセントを所有する森山千年春及び森山京が中心となつて設立した会社である。原告は、運転資金として、森山千年春及び森山京が出資した一〇〇〇万二二〇八円の中期国債フアンドを有し、その他、西村充及び西村哲からそれぞれ三〇〇万円ずつ借り受ける予定であつた。

(3) 中央スーパーは、従前一二店舗を有していたが、本件処分後、営業規模を八店舗に縮小したものの現在でも営業を続けており、同社の従前の債権の支払は依然継続中であるが、滞納していた税金は平成元年に全て支払つた。(〈証拠略〉)

3  当裁判所の判断

酒税法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱である」との要件に該当するか否かは、原則として申請者を基準として判断するべきであるが、本件では、原告は、設立後間もない会社で、営業実績が全くなく、しかも、原告は、中央スーパーでは酒類販売業者の免許を取得することができないことから免許取得の手段として設立された会社であつて、出資者も中央スーパーの発行済株式数の九〇・五パーセントを有する森山千年春と森山京の両名であり、営業活動においても、販売設備や什器等を中央スーパーから借用ないし併用するといつたように、その多くを中央スーパーに依存し、実質的には両者は一体であり、中央スーパーの経営状態如何が原告の営業に直接影響を与えるものであるから、右の要件の有無を判断するに当たつては中央スーパーの経営状態及び原告の役員の資力・経営能力をも考慮に入れるのが相当である。

そして、前記のとおり、中央スーパーは、本件申請前の昭和六一年一一月一一日から翌六二年一〇月三一日までの第二五期決算において、二億一九〇〇万四一二〇円の欠損を計上し、累積欠損は三億二二八五万八〇八二円、債務超過は三億一二八五万八〇八二円という多額の債務を抱えている状況にあり、さらに源泉所得税及び不納付加算税三〇七万二二八〇円、固定資産税四八七万六二九〇円もそれぞれ滞納している状態であつたこと、また、中央スーパーは、五億円以上に上る買掛金の未払いがあつたため、債権者から売掛金の支払を求める訴訟を起こされ、同年九月二五日には森山千年春及び森山京の個人財産に対して債権者の雪印物産株式会社から仮差押がされ、これらの債権者の一部からは商品の納入を拒否されていたことからすると、昭和六三年当時の中央スーパーの経営状態は極めて悪化していたということができ、したがつて、原告が営業資金として約一六〇〇万円を有していたことを考慮しても、中央スーパーの経営状態の影響を直接に受ける原告の経営の先行は、本件処分当時、極めて不安定であつたというべきである。

また、原告は、販売する酒類を原告の取締役前田知男の経営する前田酒販から仕入れることとしていたが、前田酒販は栃木県の会社であり、しかも当時数回に渡り不渡手形を出していて事実上倒産状態にあつたのであるから、酒類の仕入れ及び販売自体も不安定なものであつたことが認められる。

さらに、原告の役員は森山千年春、森山京及び前田知男であるが、森山が経営する中央スーパー、前田が経営する前田酒販とも経営状態が極めて悪化もしくは事実上倒産の状態にあつたのであるから、原告の役員の経営能力には疑問があり、また、原告の役員またはその経営する会社が仮差押えを受け、商品の納入拒否をされたり、不渡手形を出していることからすれば、原告の役員である森山らの経済的信用も薄弱であつたと認められる。

このように、原告は、本件処分当時、酒類販売業を営むとしてもその事業の確実な経営が見込めない状態にあつたから、本件申請は、酒税法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に該当するというべきである。したがつて、原告の本件申請に対し酒類販売業免許を付与しなかつた被告の本件処分は適法であるから、原告の請求は理由がない。

(裁判官 小野剛 佐藤道明 田邊浩典)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例